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“Le Petit Prince/The Little Prince/星の王子さま”を読み終えて、感動冷めやらぬままにその読後感を書き綴ったり、恋人や友人・子供への贈り物として、メッセージを書き込んだり、古本の見返しにはさまざまな人生模様が残されていることが多いのです。書き込んだ人・贈られた人は、その後どのような人生を歩んだのでしょう。恋人たちは幸せな時間を共有できたのでしょうか? 本が私の手に入ったということは、その持ち主は亡くなったか、本を大切に愛蔵する意思を失った/あるいはそれができない境遇になったことを意味します。これらの本は、持ち主の歓びと哀しみをその傍らにあって眺めてきたはずです。愛憎模様を胸に秘めて時間を旅したのは「王子さま」ばかりではありません。 |
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書き込みが、いつも真実であるとは限りません。いや、熱に浮かされてその人らしからぬ感動を書きなぐったり、取り繕った他所ゆきの顔を見せたり、場合によっては落し穴さえ設けてあるかも知れません。所詮人間とはそういうものです。 ひとつの例をお目にかけましょう。
![]() 岩波愛蔵版の「星の王子さま」。裏表紙の見返しに記された書込みはとても簡潔で、1962年12月15日に、Y. Minato さんから Minoru さんへ贈られたものと読めます。でも、この本の奥付には“第15刷 昭和41年11月10日発行”とあります。1966年11月に印刷・発売されたこの本が、どうして4年も前の1962年に贈り物にできましょう。悲しい嘘なのかも知れませんが、ほほえましいケースばかりとは限りません。(「’62.12.15」というのは、プレゼントした日ではなく、何かの記念日を表しているのかもしれません。だとすれば、この書き込みには何かのドラマが秘められているのでしょう。) 外国、殊にアメリカには、発行年月日を詳らかにしない出版社が多くあります。Reynal & Hitchcock 社や Harcourt Brace 社も発行年月日を記載しません。いつ発売されたものであるかを類推する上で、読者による書込みは大変参考になりますが、新本を購入してすぐに書き込んだとは限りませんし、上のような例もないではありませんから、あまり頼りにするのは考えものなのです。 |

1962年9月28日発行の Gallimard 社版 Le Petit Prince(ペーパーバック)。表紙の見返しいっぱいに書き込まれた、コンスエロ直筆の似顔絵と献辞です。
【⇒ 画像は相手の似顔絵ではなく、コンスエロ描くところの Le Ptit Prince であることが判明しました。】 【判読困難な文字の読解については、リヨン在住のKさんにお知恵を拝借しました。Kさん、ありがとうございました。】 |
「僕たちは立派な大人なんかじゃない。恋なんて気ままな芸術家が作り出したものなんだ * と思っている、哀れな貧乏男ふたりに過ぎないんだ。」
“ふたり”のサインがあります。筆跡から見て、本文を書いたのは右側にサインした人です。ペンが替っていますから、2番目にサインした左側の人は自分の万年筆を使ったのでしょう。フランソワという男性名と1948の年号が続いていますが、本文中にははっきりと「ふたりの、地位も財産もない男」と書いてありますから、この書込みがなされた時点では、フランソワさんは立ち会っていなかったはずです。3人が友人同士で、後から本を読んだフランソワさんがサインを追加したのか、前のふたりとは面識がなく、古本を手に入れてサインを書き加えたのか、判断材料はありません。
【判読困難な文字の読解については、リヨン在住のKさんにお知恵を拝借しました。Kさん、ありがとうございました。】
どうしてもロマンティックな想像をしてしまいます。
【“Auntie Gladys”はフルネームではなく、“Gladys 伯母さん”だろうというご指摘を リリ さんから戴きました。その方が自然な解釈になりますので、和訳部分を上記のように改めました。リリ さんありがとうございました。】

1967年7月12日発行の nrf 社 Pléiade 版 Œuvres; Antoine de Saint-Exupéry 。コンスエロ直筆の Petit Prince 肖像と献辞です。日付は1972年11月18日。
贈呈相手は Maya & Boby Richardson(夫婦でしょう)。署名はサンテグジュペリ伯爵夫人とあります。

1947年12月15日発行の Gallimard 社版 Le Petit Prince(ペーパーバック)表紙の見返しです。3人連名でサインしているように見えますが、文章を読むとそうではないことが判ります。
* この部分、“grandes personnes”が Le Petit Prince からの引用であることは明らかですから、“enfant de Boheme”をどう解釈するのかに苦しみました。Le Petit Prince の内容を勘案して、ギリギリ妥協できそうな訳として上記のような文章を考え出したのです。
リヨン在住のKさんが、友人であるフランス人の文学者に照会してくれました。その結果、「カルメンの中に出てくる文句を引いているのではないか」と指摘を受けました。「あッ!」と声が出るほどの衝撃でした。カルメンをフランス語で読んだこともなければ、観たこともなかったものですから、思い浮かぼう筈もない解釈です。
カルメンは、メリメの小説よりも、ビゼーの歌劇として有名です。その第1幕でカルメンが歌う有名な「ハバネラ」の中に、“... 恋はジプシーの子”というくだりがあります。指摘されたのは多分これのことだろうと思われます。(フランス語のテキストを捜しています。まだ確認できていません)。とはいえ、もしそうだとすると、この書込みが何を言おうとしているのか、悩みの種になってしまいます。歌は“法も掟もありゃしない。あんたが嫌いでも私は好き。私が好いたら....”と続くのですから。
書込みをするほどの人が、僅か1年足らずで本を手放すとは考え難いので、3人は仲間同士なのだろうと考えるのが自然だと思います。(「フランソワ」は署名ではなく、献辞「フランソワへ」だという解釈もあります。)

ディック
これは私が大好きな本なの。心を込めて読めば、とても考えさせられる本よ。もし気に入ってくれたら、これあなたにあげる。
私ってね、すっかり大人になってしまった人はある種の知恵を失ってしまっているから、それを思い出すためには −あなたにもそうしてほしいの− 少しの間だけ子供に戻らなくっちゃならないんだって、信じている人なの。
ジェニー
【“last”は“lost”ではないかというご指摘を リリ さんから戴きました。文の意味が正反対になってしまいます。“lost”と考えたほうが素直な考え方になり、The Little Prince を贈る理由も納得できるものになりますので、和訳を上記のように改めました。リリ さんありがとうございました。】
Reynal & Hitchcock 社英語初版の無刷番版(=第7刷またはそれ以降)の扉に鉛筆で書き込んであります。
通常、この種の献辞はインク書きです。鉛筆を使ったということは、もし受け取って貰えなかったら、消すつもりだったのでしょう。正面切ってのプレゼントではなく、本を貸す形で手渡したことは明らかです。この時点、ふたりの間柄はまだ微妙、だったと考えてよいのではないでしょうか。

少年文庫53(36刷,ハードカバー版)の裏表紙裏一杯に書かれた文章。
別れに際して恋人に贈った、と思うのはドラマ仕立てに過ぎるでしょうか?
この(元)恋人、別の誰かと結婚するのかも知れません。

私たちの大事な“王子さま”;はじめてのクリスマスに。
これは私の大好きな物語り、あなたもこれを喜んでくれるといいな。
沢山たくさんの愛を込めて。
グラディスおばさんより
Harcourt Brace 社英語版扉への書き込み。
「はじめてのクリスマス」といっていますから、この「little prince」は、0歳児ということになります。読み聴かせるにしても無理な話。将来読めるように成長したときへの贈り物ということなのでしょう。

1974年2月14日
私の可愛い王子さまへ
この本を大事に取って置きなさい
そして、ときどき読みなさい。
これが言っていることは
とても大事なことなの。
愛を込めて
母より
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